チェシャー猫のまえがき

 これは、アリスを名乗る宮垣弘さんとチェシャー猫を名乗る野口慊三のあいだで、2001年3月26日から2003年9月15日まで、2年半にわたって続けられたメール対談の記録です。「人間とは何か、物質とは何か、神とは何か」といった問題について、心の赴くままに語り合う楽しい対談でした。読者にその楽しさが少しでも伝わり、チェシャー猫の過激な(荒唐無稽な、と思われる方もあるかもしれませんが)言葉遣いが、読者の心の常識的観念をすこしは揺さぶる刺激になれば幸いだと思っています。

宮垣さんと私とは、もと同じ会社で一緒に仕事をした仲ですが、仕事以外のプライベートな付き合いはほとんどないといってよい間柄でした。それが思いもかけずこのような対話を2年半にわたって延々と続けることになったきっかけは、あるとき食事をご一緒した際の雑談で、何かの弾みに私が「物質世界はバーチャル・リアリティである」とか、「脳はテレビ受信機のようなもので、脳をいくら調べても意識がどこから生まれるかはわからない」というようなことを口にしたことにあるようです。宮垣さんはそれを憶えておられて、その後わざわざ会いに来られ、数時間話合いを持ちました。そして、その続きをメールで対談してご自分のホームページにのせたいと提案されたのでした。そのため、この対話はいきなり「チェシャー猫さんがこの世はバーチャルなものだと気づかれたのはいつですか」という質問から始まるのです。

二人がアリスとチェシャー猫を名乗ったのは、宮垣さんのいたずらです。「アリスのあとがき」にご自分でお書きになっていますが、宮垣さんはルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」のファンで、Alice In Tokyoというホームページまで開いておられます。そのため「宮垣さんがアリスなら、私はチェシャー猫くらいになりましょうか」ということで、私がチェシャー猫を名乗ることになったのでした。対話の中でも、アリスの発言には随所に「不思議の国」や「鏡の国」の引用があり、生真面目なチェシャー猫の一直線の発言をふっとそらして文学的な匂いで煙に巻いたりされています。

宮垣さんは、絵を描いたり、シェイクスピアを原語で読んだり、ヨーロッパを一人旅するかと思ったら、禅寺に篭るなど多方面に動かれる方なので、おかげで対話全体がふくらみ、味わいのあるものになったと思います。読者の方も、遊び心をもって読んで下さい。「すべては神の遊び」なのですから。

本にするにあたって、用語の不統一などをすこし訂正しました。後になってみれば、多少勇み足の表現や、もっと適切なたとえが考えられるという個所もありますが、そのままにしてあります。

 

2003年9月30日  チェシャー猫:野口慊三


アリスのあとがき

この対話の発端は野口慊三さんのまえがきにある通りですが、対話が始まって、間もなく野口さんは『魂のインターネット』(日本図書刊行会)を上梓されて、更にまた、HP『霊性の時代の夜明け』を作られましたので、野口さんのお考えを知る機会は広がりました。

そのような中で、この対話が長く続きましたのは、私の個人的関心に、野口さんが忍耐強く付き合ってくださったこともありますが、何よりも自分の考えを理解して欲しいという野口さんの情熱によるものです。40年以上もの思索と体験による蓄積が、ほとばしり流れているという印象を受けました。

ここには、所謂、宗教臭さはありません。かといって、自然科学的論証とも異なります。例え話でしか、表現できない世界であることが繰り返し説かれています。

対談の過程で野口さんの表現は少し変化していますが、お考えはスタート時点と余り変わりないように思います。一方、私の方は3度大きな覚醒を体験しています。

今も、野口さんの考えと完全に一致したとはいえませんが、指している方向はほぼ同じではないかと思います。少なくとも言葉では表現し得ない世界であるという点で一致し、そこで、この対話を閉じています。

もし、読者がそのことを感じていただければ、この対話をお読みいただいた意味があると私は思います。

最後に私が何故アリスを名乗っているかについて触れます。

私はルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』のファンです。アリスは、不思議の国で、色々な不思議なことに出会いますが、その対応が素直で、物怖じせず、柔軟なところが好きです。還暦も過ぎ、人生の中で色んな目にあった末、ある日、ふと、自分もアリスだな!と思ったのです。不思議な世界の中で一人生きている7歳の少女と変わりがないと感じたのです。そしてHPAlice In Tokyo 』を作りました。その中にチェシャー猫さんの登場も面白いのではと野口さんをお誘いし、HP『意識と宇宙についてのチェシャー猫とアリスの対話』が始まったという訳です。

チェシャー猫は『不思議の国のアリス』に出てくるキャラクターで、こんなことを言っています。 

アリス: すみませんが、私はどちらに行ったらよいか教えていただけませんか。     
チェシャー猫: そりゃ、おまえがどこへ行きたいと
思っているかによるね。 
    

ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」
訳:宮垣弘 

私は野口さんのお蔭で、この対話を通じて、自分の行き先がわかったと思っていますが、あなたはどこへ行きたいと思っていますか? 

2003年9月30日 アリス:宮垣 弘

 

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